霜 
 



何の拍子にか眸が覚めた。
静寂の中、広々としたベッドに、独りきり。
まだ夜更けに違いないというのに、辺りは不思議と明るくて。
身を起こせば、視野の中、
寝乱れたシーツのひだが乱脈な紋を成し、
その色濃い陰が高く低く入り乱れている。

――― 月?

下ろし忘れたブラインド。
藍色に染まった窓を貫いて、部屋の中を満たすは蒼い月光。
見上げた視線はあっけないほどのすぐさまに、その主を視野へと捕らまえる。
風があるのか、流れる群雲。まるで千切った和紙のよう。
障子越しの影のようになっては、それでもするすると現れて。
もはや取り巻く霞みもなくなり、
微動だにしない月の威容は、
孤高であるが故、冷たく冴えて容赦なく。

 ――― …あ。

その鋭い光の刃は、真っ向から見定めし、弱き心を挫きにかかる。
総てを容赦なく剥ぎ取られ、あらわにされてく気さえして。
鎧うものさえ持たぬ身に、せめてと両腕
(かいな)で我が身を抱(いだ)き。

 ――― どうして…。

まるで世界中に独りきりも同然な、そんな気がして怖くなる。
他には縋る縁
(よすが)もないままの、
絶対の独りが、胸に痛くて。
今にも萎えそうになったけれど。

 ――― 妖一?

明かりさえ灯さぬままの慣れた足取りで、平然と、
傍らへ戻ってきた温もりがあって。
ごくごく当たり前の手際でもって、両腕
(かいな)の中へとくるみ込まれる。

 ――― 悪りぃ。起こしたか?

懐ろの温みへと掻い込まれ、無言のままにかぶりを振った。
やわらかな声は低く響いて温かく、
どこもかしこもが触れるほど、すっぽりと包み込んでくれる存在の、
馴染みの匂いがひどく落ち着く。

 ――― ………。

もう一度見上げた冴月は、
今度こそガラス越しの天空に遠のいて。
もう同じ“独り”じゃなくなったからかな、
その声も聞こえはしない…。


  ――― どした? まだ遅いから、もっかい寝な。
      うん………。




  〜Fine〜  05.12.28.


     *本当はキングと遊ぶチビ蛭魔の話を考えていたのですが、
      原作拡張の方で書いた話と微妙にネタがかぶっていたので
    (笑)
      何となく書き直したら、こんなん出来ました。
      ルイヒルの御用納めがこういう話で良いのかなァ…。
      何はともあれ、皆様良いお年をvv

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